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おしんの中国版ポスター
今から36年前に日本ドラマ史上最高平均視聴率をたたき出したモンスター朝ドラ『おしん』が再ブレイクしているようです。
NHK朝の連続ドラマ『なつぞら』のBS時間枠の前番組で再放送したところツィッターなどで『なつぞらよりおしんのほうが断然面白い』などのコメントが多く寄せられています。なつぞらを盛り上げるために起用されたおしんでしたが完全になつぞらを食ってしまいました。

おしんは明治、大正、昭和をたくましく生き抜いた女性の一代記。平均視聴率は52.6%。これはビデオリサーチの統計史上、テレビドラマの最高視聴率記録となっています。近年の紅白歌合戦の最高瞬間視聴率が40~43%くらいですのでおしんがいかにお化け番組であったかがわかります。

日本国内だけでなく世界中で大ブレイクしたおしん。但しフィリピンは例外で不発でした。世界中の大ヒット事例を紹介していきながら、フィリピンでのおしんの絶不調について考えてみます。

世界中でもおしんブーム

日本版おしんのポスター

おしんは海外では一番有名な国産ドラマです。放送当時のアメリカ大統領だったレーガンに『日本にはおしんの心がある』と言わせしめています。
以下は海外にまつわる代表的なおしんのエピソードです。

* 世界63か国や地域で放送され、「世界で最もヒットした日本のテレビドラマ」
* 中国/初回放送から20年経っても再放送されている。
* 香港/主題歌が大ヒット。
* 台湾/オープニング・エンディング曲が大ヒット。再放送27回目。
* ベトナム/メイドや家政婦のことを「おしん」と呼ぶ。
* エジプト/放映中に停電発生→視聴者大激怒→電力会社とテレビ局に暴動を起こす→政府が慌てて再放送を約束→暴動がようやく収まる。
* イランやアフガニスタン/最高視聴率90%以上。「Oshin(ウーシン)」は日本を表す代名詞となる。
* ジャマイカ/子供の性別を問わず「オシン」と名づけることが流行する。

出典:ミドルエッジ

フィリピンでは途中打ち切り

オシンドロームという造語がアメリカのタイム誌で紹介されるほど世界(特にアジア諸国)を席巻したおしんではありますが、フィリピンでは不振で第48話(全297話)で打ち切られてしまいました。出典:Withnews 
全話を過去27回再放送した台湾とはえらい違いです。

フィリピンでおしんが受け入れられなかった理由

僕自身おしんにはまっていままで全話を3回視聴しています(但し2回目、3回目の『地獄の佐賀編』はつらすぎてスキップ)。おしんには今流行の影でそっと支援する優しいイケメン夫など出てくるはずもなく、夫や子供たちはその愚かな判断やヘマによりおしんを奈落の底に突き落したりします。おしんの祖母は飢えに苦しむ家計をすこしでも助けるため自殺しようしますし、おしん自身も家の事情で女郎屋に売り飛ばされそうになります。話がかなりリアルで悲惨です。おしんは全話を通して逆風に立たされ続けますが持ち前のガッツとウィット、善意の人々の手助けにより運命を切り開いていきます。
僕自身はおしんからたくさんの勇気をもらいましたがおしんストーリーがフィリピン人に受け入れられなかったのもなんとなくわかるような気がします。

おしんのあくせくは美徳にならない

忍耐、辛抱、努力、倹約、節約、勤勉などが美徳として日本で褒めたたえられるようになったきっかけは徳川家康だと思います。派手好きの信長や贅沢三昧の秀吉、文化物に散財した足利の殿様たちには倹約イズムが微塵も感じられません。
時の絶対権力者であった家康が実践した勤勉節約スピリットは米将軍徳川吉宗や松平定信によって引き継がれていきますし、明治、大正、昭和の戦争時代にも国家レベルで喧伝されていきました。
おしんの辛抱をしながらあくせくと働く姿も番組全体で『善』として描かれています。
非常に優れた才知に恵まれているにもかかわらず朝から晩まで寝る間もおしんであくせく働きながらも愚痴一つこぼさず夫や子供たちと一緒に暮らせて食べていける事に至上の幸せを感じるおしんに多くのフィリピン人は違和感を覚えると思います。
『たいして儲かりもしないのにそこまで働く必要はないじゃないか?』そう感じるフィリピン人は多いでしょう。
フィリピン人は非常に楽天的です。たとえポケットに10円しかなくても『なんとかなるさ』とあまり気にしません。フィリピンは常夏なので冬をしのぐ苦労がありません。それと海と魚に恵まれており、フルーツもふんだんにとれるのでお金がなくたってなんとか生きていけた歴史があります。そのような環境で暮らしてきた先祖のDNAが引き継がれてか、お金があればあれでよしですし、なければないでなんとかなると考えるフィリピン人を多く見てきました。
一生懸命努力すればいつかは豊かになるという夢を与えるおしんの生きざまは中国やベトナムの模範にはなっても楽天的なフィリピンの指標にはなりません。

不条理に対する反骨精神

ドラマおしんではおしんに対する目上の人の不条理な仕打ちが非常に目につきます。難癖、不合理、矛盾、いじめに耐え忍びながらも機知と努力で運命を切り開いていくテーマです。
フィリピンではおしんのような辛抱を将来の手本とする人はほぼいないと思います。不条理があれば職場を辞めるか、警察に訴えるか、喧嘩になるかです。
あまり褒められる事ではないですがフィリピン人は職場で長続きする人が少ないです。辛抱、我慢、人に怒られる事を嫌うきらいがあります。一緒に仕事しててそう感じます。

おしんと融合しない国民性とフィリピン留学

おしんを受け入れがたいフィリピン人の国民性ではありますがその独特キャラがフィリピン留学でどのような影響を与えているか考えてみます。

ネガティブ面

フィリピン人から多くの日本人が失いかけている心の豊かさと余裕を感じる事があります。お年寄りを敬いますし、体が不自由な人に対しては見ず知らずの人でも積極的に手伝ったりします。
ゆったりのんびりで自由とあたたかさを持ち合わせたうらやましい性格ですがビジネス面ではマイナスに動きます。
そのおおらかさが災いしてかフィリピン人はあまり約束事を重要と思わない人が多いです。時間にもルーズで遅刻しても大して気にしませんし、弁明したり、言い訳しない人もいます。そして遅刻や欠勤を笑って許してしまうおおらかな社会的雰囲気があります。
ですが外国からわざわざ学習のためにフィリピンに渡航した留学生にとってはとんでもない話です。
フィリピン留学は20年の歴史を持ちますが最初の10年ははフィリピン人講師たちに遅刻とドタキャンは行けない事だと諭すのに苦労したという話を学校スタッフからよくききます。
今では無断欠勤や遅刻がいけない行為という意識がフィリピン人講師の中でだいぶ浸透するようになり、ルール違反の数も激減しましたが、それでもまだ残っています。

ポジティブ面

仮にアメリカにフィリピンのようなマンツーマン主体の指導スタイルが確立されていたとしてもフィリピン留学ほどの成果を見越せないと僕は思います。
マンツーマン授業がスピード成長のカギである事は間違いないですが、フィリピン留学にはそれとプラスアルファでフィリピン人特有のおおらかさ指導、おしんとは別のタイプの辛抱指導があります。
たとえば学習につまづく生徒はかならず存在します。これが欧米人講師ですと2~3回同じ個所を教えてそれでもだめならそれは生徒の問題とかたずけてしまうかもしれません。たぶん僕が講師でも同じ判断(逃げ)をすると思います。取り残された生徒は困ってしまいます。ですがフィリピン人講師はあきらめません。同じ個所をわかるまで何回でも何十回でもニコニコしながら繰り返し指導してくれます。留学生にとってこれほど心強い存在はありません。
僕は知り合いのフィリピン人講師に『なぜ腹も立てずにニコニコして同じ事を同じ生徒に繰り返し指導できるのか』と聞いた事があります。
『彼が理解できないのは彼のせいではありません。彼は神様から他の面でいい物を与えてられています。僕は英語の面では神様から贈り物をもらっているので神様の贈り物を他の人とわかちあうのは当然の義務だと考えます。』
耳が痛いコメントです。彼らは物事を優劣で判断しません。偏差値や営業成績などに縛られないフィリピン人ならではの自由な発想。フィリピン留学を成功に導いている大きな要素のひとつはフィリピン人のおおらかさとおしんとは違う我慢強さだと思います。もっともフィリピンの先生たちはおちこぼれの生徒を教えるのを辛抱や我慢とは考えておりませんが。

 


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